それはそうと飯はまだか

思ったことや、感じたこと、妄想を綴ります。

三年間連れ添った相棒をなくした話

はじめまして。

思ったことや考えたことを適当に綴っていきたいと思います。

そういえば携帯無くしたんですよ。この間。三年間連れ添った伴侶が、新宿駅という魔窟へ吸い込まれてしまいました。

※以下妄想、有益な情報は一切ないです

最後に彼を手にしたのはそう、券売機でパスモに運賃をチャージしようとした時であります。私は普段、スマホのカバーについてるポケットにパスモを入れており、常にセットで持ち歩いているわけです。スマホはこう言いました。

「相棒、また運賃が足りないんじゃないか…?全く、仕方ないな、ほら俺のポケットからこいつを取りやがれ。チャージしたくてたまらないんだろ?」

私は、少し気恥ずかしそうに彼のポケットをまさぐり、それを取り出す。

「120円だけ、120円だけチャージする…今回分だけだ…」

私のパスモは定期券も兼ねているが、新宿から私の定期券内までは120円必要だった。ケチな私にとっては、一気に1000円チャージするというのは些か勇気のいる事であった。

「まったく、かわらねぇなぁ!」

さて私は順調にパスモにチャージを済ませ、改札をくぐり抜けた。意気揚々とホームに向かう。今日は私の誕生日。記念すべきこの日を、相棒と共に迎えるんだ。お祝いのLINE、家族からのメッセージ、自分絵のご褒美物色…。そして、保存したエッチな画像を思う存分楽しむんだ。一人でニヤニヤして妄想にふける男の姿がそこにはあった。ともかく、帰路につかねばなるまい。早電車に乗り込んだ時、発車まではやや時間があったため、さて暇潰しをしようと思った瞬間であった。

「あれ…」

彼の姿が見当たらない。おかしい。ショルダーバッグにも、そのポケットにも、コートのポケットにも、パンツのポケットにも彼はいなかった。そもそもこの日はスキニーだった為、パンツに入っていない事は体の感覚でわかる。からっぽだ。彼の声も、温度も感じられない。

真っ先に思いついたのは、券売機。そうだ、券売機だ。券売機でチャージした時、パスモを取り出すために彼を召喚した。だから、チャージして、彼をそのまま置き去りにしてしまったんだ。それしかない。

私は不安に駆られ、一目散に改札へ向かう。置き去りにしてごめんね。つらいよね、寂しいよね。今、迎えにいくからね。再開したら、その輝きをもう一度見せてくれ。

しかし、彼はいなかった。新宿駅を急ぎ歩く人々の雑踏が、一つ一つ、混じり気もなく胸に響いてくる。足音が、無機質な音ではなく、たしかに人間がそこにいるという証明であった。

どこだ。彼はどこにいった。まだ遠くへは行ってはないはずだ。駅員さんに尋ねた。遺失物センターのおじさんに尋ねた。その全てが、

「最近多いですからね…まだわからないので、後程連絡してください」

茫然とした。私は、なんと何と無力な存在だ。今まで支えてくれた、友一人も救えないなんて。たしかに、さっきまでここにあった温もりは、嘘のように消え、私のものだった彼は、都会の一部と化したのだ。

警察に届けても同じ事だった。やはりそう簡単に見つからない事はすぐにわかった。ただ、これが永遠の別れではない事を微かに信じていた。

そうだ…GPS…なぜそれを真っ先に思いつかない!彼の居所は科学の力であぶり出すことが出来るはずだ!

iPhoneを探す」

なんかたまたま隣にいた友人のスマホを借りてそんなアプリを開く。こんなものがあるなんて知らなかったし、まさかこんなタイミングで使うとは…

天にも祈る気持ちであった。

どうか、神さま、彼をお救いください。
まだまだ私共は夢の途中なのです。
初めて行った京都の写真。勇気を振り絞って交換した初めての女の子のアドレス。
「あんまりギガ数多くなくてごめんね」
そう言う彼を気遣って厳選して保存したエロ動画、とんでもなくハレンチな画像、二度と巡り会えないであろう変態的なgif画像…

その全てが、彼との思い出となって宙をまう。ギガ数が少なくたって、それでも、それでも幸せだった。

どうか、彼がすぐそばに有らんことを…


「探せません」


無機質だった。その五文字がとてつもなく無機質で、私の希望を一瞬にして切り裂いてしまっていた。ショックのあまり、私はそのまま泥のように寝た。


翌日。私の唯一の頼りはパソコンであった。ここから電話会社にアクセスして、携帯の位置を探すことができるらしい。アプリは関係ない。電源が入っていれば探すことができるらしい。まだ、まだ希望はある。一縷でも可能性が残っている限り、私は諦めない。まだ、まだだ。再開して、また一緒に「ただいま」って言うんだ。

契約している携帯会社のホームページに行き、申請を行う。必要事項を記入して、「探す」をクリックした。その刹那、パソコンから無数の電波が青白く飛び出し、天へと一直線に舞い上がった!まるで曇天をかき消すかのようなその勢いに、思わず身構える。天に昇った光は、やがて放物線状に広がり、街を覆った。と思った。希望の光は、まだ私と彼を繋げているのだ。

見つかったのだ。彼は生きていた。

府中市

あり得ない事だった。新宿で無くし、川崎市に住む私の相棒が、府中にいるだと!そんなことが許されるのか!

だが、確かに生体反応があった。間違いない。生きている。諦めないでよかった。と言う事は、府中市の交番などに行けば彼は私を待っているかもしれない。誰かが、自分の相棒と間違えて、彼を連れて行ってしまったのだ。そうして、府中についた時、間違えていたことに気がついた、という具合だろうか。

「ここにいるよ」

微かに、それでいて確かに私に彼は語りかけてきたのだ。すぐに迎えにいくさ。寂しい思いをさせてすまなかった。もう泣かないで。大丈夫だよ。今、迎えに…

私は確証を得るため、再検索をかけてみる。
「誤作動で、違うところにあったら困るからな」
そんな、軽い気持ちだった。

ー存在とはなんだ。そこに在る事か?生きていることか?否、そこにたしかにいると、人が認める事だ。ー





「探せません」





何が起きた。この二分の間に、何が!彼の身に何が起きたんだ!さっきまで、ここにいたろう!いや、ここにはいなかった…だが、存在証明として、私の前に現れたはずだ!あれは幻か!?彼が最後に、私への愛を見せたのか!?

「ここにいるよ」

まだ彼の声が、頭から離れない。



機種変までには時間を要した。それは、手続き的な意味ではなく、私の気持ちの問題だ。必死に保存して共に夜を過ごしたエロ動画、女の子にカメラロールの写真を見せた時、勝手にスライドされて見られた超ハレンチな画像、大きなおっぱいを、小さな画面に携えて、夢を抱いたあの日。


もう、ここにはいないんだ。


これは全部、iPhoneが自動的にバックアップを取ってくれていたと知る前のストーリーです。今は新しいパートナーと共にいます。エロ画像も増えました。